8月のせい (1)

今年も8月になってから、戦争体験記を散見します。

そういうものに目を通しているからか、昔聞いた話が蘇ってきました。

というわけで、今日は戦争にまつわる話です。



表情のないひと

その人は、私には表情のあまり豊かでないおばあさんに見えていた。
笑わないし、怒らないし、口数は多くないし、いつも同じ調子で話すから、つかみどころがないとも感じていた。

引揚者だと聞いていた。

日本に戻ってからは女手ひとつで子どもを育てただただ苦労を重ねてきた、という漠然な話は聞いていたが、彼女に戦争の話を聞いてはいけないと、うちの親から釘を刺されてもいたので、それ以上の話を聞いたことはなかった。

彼女の家族とワイワイガヤガヤと食卓を囲んでいる時、テレビで北朝鮮のニュースを流し始めた。

彼女の息子が画面を見つめながら「あそこは◯◯の近くだね」と、独り言のようにつぶやいた。

「読めるんだ。住んでたからね。懐かしいな…」

いろいろビックリして、私はきっと素っ頓狂な顔をしていたはず。
この親子がかつて北朝鮮に住んでいたことも知らなかったし、「引揚者」とは満州から帰国した人たちだと思い込んでいた。

親から「戦争の話を聞くな」と釘を刺されていたので、聞きたいことが噴出してきたけど、言葉が継げなかった私の口からついて出たのは…

「北朝鮮って寒かった?」

何を聞いてるんだ、私。

「覚えていないんだ」

え?

「おふくろもオレも、当時のことをほとんど覚えていないんだ。な?」

おばあさんはシワの一つも動かさず「ん」とだけ言った。


...つづく

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