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8月のせい (2)

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甘い思い出


予想外の話の展開に困惑していると、台所から料理を手にしたお嫁さんが来て、食卓についた。

「あらあら何の話? 北朝鮮? あー、そうそう、この人たち住んでたから。そりゃあもう、大金持ちやったんやで。な、そうやろ? 人が振り返るえらい二枚目の旦那さんと、優雅なべっぴんマダムやったんやもんな~?」

おばあさんがニヤリと笑った。
笑った顔、初めて見た!

「白いズボンにぴちーっと折り目がついて、髪はバシッと決まっていて、ハットを被って、スキのない洒落れた人だったな。どこの俳優かって言われたものよ。はぁ~、こんな二枚目が私の旦那さんなのかと、見とれてたな」

おばあさんの頬に紅をさしたような色がともった。

「あんな二枚目、いまだに見たことないな。今思い出しても、ポーッとする」

「旦那さんの話になると、乙女の顔になるな~。しわくちゃの乙女や」とお嫁さんが茶々を入れた。

「でも、従業員や使用人には厳しくて『あんたはオニや』と言われていたらしいが、私には優しくて最高の男だったな。買い物は欲しい物を買ったし、自分で支払うことはなかったし、あの頃はお金の価値も分からなかったな」

おばあさんの頬は染まったまま昔話が続いた。

しかし、その旦那さんの写真一つ残っていない。おばあさんの心のなかに残るだけで、知るすべがない。その血を引いた息子に面影はあるのだろうか?

「似ても似つかんよ。旦那さんはこんな不細工じゃない」

自分の息子にヒドイこと言うなぁ。
それにしても…。旦那さんのことを語るときは饒舌になるんだなと、安堵のような気持ちと同時に切ない気持ちが湧いてきたのだった。

...つづく

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